本記事のもくじ
2020/05/28 本文・目次をリライトし、関連記事を追加しました
0. 投資と投機、ギャンブルの違いを正しく理解しよう
あなたは、「投資」「投機」「ギャンブル」、この3つの違いが分かりますか?
本記事では、誤ったイメージでとらえられがちな、それぞれの意味と違いを「リターン(利益)」「リスク」「保有期間」の3つの観点でくわしく解説していきます。
1. 投資・投機・ギャンブルの辞書的な意味
広辞苑で検索すると、それぞれ以下のような意味が記載されています。
損失の危険を冒しながら大きな利益をねらってする行為。やま。
市場の変動を予想して、その差益を得るために行う売買取引。
賭けごと。ばくち。投機。
投資と投機については、いずれも当然ながら利益をねらって行う取引であることが定義されています。
そして、両者の違いは投資が元本の保全も図りながら一定のリターンを得ることに対して、投機は大きな損失の危険も冒しながら大きなリターンを狙うとあります。
また、ギャンブルは広辞苑に頼るまでもなく、賭けごとの意味合いですね。
(「ギャンブル」の定義の中にだけ「投機」が混じっているのは少し興味深いですが。。)
なお、fx、先物等の「トレーディング(交換取引)」については、投資でも投機でもなく、ビジネスとして切り分けるのが正しいと考えています。
例えば、あなたがfxの取引をする方であれば、あなたは「為替交換取引事業者」ということになります。
その点については、こちら(fxのトレーディングは「投資」ではなく「事業」)の記事をご覧ください。
2. 投資・投機・ギャンブルを比較する3つの観点
それぞれについて、辞書的な意味は分かりましたが、実際の経済取引としてはどんな違いがあるのでしょうか。
投資商品を評価する際の主な評価軸である、「リターン」「リスク」「保有期間」の3つの観点で見てみましょう。
なお、ここでの「リスク」とは「危険性」という意味ではなく、「リターンのばらつき」という意味合いなので気を付けてください。
リターン
まずは、それぞれの収益性がどのような性質かを見ていきます。
「投資」については、元本を保全しつつ、一定の利回りを得るという辞書的な定義通り、全体として成長する、例えば株式などプラスサムの市場に資金を投じることが多くなります。
そのため、リターンの期待値(得られる収益×確率の合計)自体はポジティブになることが、一般的には多くなります。
一方、投機と比べるとどうでしょうか?
投機は、1で見た通り市場の変動に乗じる取引なので、リターンは当然ながら市場の状況と取り組む人の力量に大きく左右されます。
また、単に価格変動で差益を取っていくだけなので、為替や先物など、参加者のリターンの合計がゼロの市場(「ゼロサム」の市場)にも参入しやすいことが特徴です。
そして、当然ながら「投資」に取り組む参加者が多くいる、株式のようなプラスサム市場でも、価格変動などに乗じた投機的な取引をすることは可能です。
ある株式銘柄について、誰も予想しなかった材料が出たことで価格が大きく動く場合など、それは投機のチャンスになり得ます。
評価の基準に、取引商品の種類を敢えて取り上げていないように、実際にどの商品に資金を投じるかはあまり投資か投機かには関係がないのです。
(注:株式は投資で、fxや先物は投機だと分かりやすく明言してしまう情報も多いですが、断定が過ぎると思います。)
というわけで、リターン(収益性)という観点で、投資と投機、どちらが優れているか一概に言い切ることは難しいと考えた方が良いです。
それでは、ギャンブルの場合はどうでしょうか?
胴元は、参加者の資金から平均的に掛け金の一定額をもらうことで、ギャンブルの運営を成立させています。
例えば、少し古いデータですが、日本の公営ギャンブルの払い戻し率は下記の通りになっています。
(ex.宝くじに1万円投じると、平均的には45.7%の4,570円が返ってきます。)
(出所:http://www.soumu.go.jp/main_content/000084191.pdf)
そのため、参加者の平均的なリターンはマイナスになります。
投資と投機の表現を流用するならば、「マイナスサム」のゲームということになりますね。
いずれにせよ、ギャンブルは投資と投機よりも明らかにリターンが低いことが言えると思います。
(なお、少し混乱させてしまうようですが、ギャンブルも参加者の工夫で自分のリターンの期待値をプラスにすることができるものも一応あります。
カジノでのカードカウンティングやパチンコの店や台選びなどで、自分の期待値を自らプラスにしている人たちもいるようです。
もちろん、勝てる人として胴元に認識されると、賭場に入れなくなってしまいますが。。)
リスク
次に、「リスク」(リターンのばらつき)という観点で見てみましょう。
これについては、まず投機について考えると分かりやすいでしょう。
「投機」は市場の変動が大きい(あるいは、大きくなりそうな)局面で資金を投じることが多いので、リターンのばらつきであるリスクは一般的に大きくなりやすいということは言えるでしょう。
また、敢えてそういった局面に取り組んで、リスクを増大させることを狙う取引と言えます。
なお、リターンのばらつきであるリスクを増やすこと自体は、投資にとって悪いことではありませんので、念のため付け加えておきます。
一方、「投資」については、辞書の定義にもある通り、元本の保全もしながら一定の安定したリターンを狙っていくものです。
よって、「投資」は「投機」よりもリスクの低い取引であることは言い切っても良いと思います。
なお、ギャンブルの場合は、リスクの高低はモノによってまちまちのため、一般的に評価することは難しいかと思います。
例えば、日本の宝くじであれば、安定的に低いリターンが期待できる低リスクの商品ということになります。
保有期間
最後に、商品の保有期間を考えてみましょう。
「投資」は中長期の保有、「投機」は短期の保有と定義づけされることが多いですが、果たしてそうでしょうか。
確かに、「投資」は、プラスサムのゲームであることが多いので、市場の成長が実るまで一定の期間を要することが多いのは確かです。
投機が一定の相場変動のチャンスを捉えて資金を投じるとしても、保有期間が数日なのか、数か月なのか、あるいは年単位になってくるのかは、取引者と相場の状況によると思います。
そういった意味で、「長期保有なら投資、短期保有なら投機」と明確に定義してしまうのは言い過ぎと思います。
敢えて言うならば、
「投資は長期保有に、投機は短期保有になることが比較的多い」
くらいまでだと思います。
(また、辞書編纂の方もその観点での定義づけが難しいと判断したのか、広辞苑にも取引期間の記述はありませんね。)
3. 投資が投機に変わることもある
1-2で見てきた通り、「投資」と「投機」の境界線はそこまで明確なものでないことがお分かりいただけたと思います。
それでは、最初は「投資」だった取引が、「投機」に変わる瞬間があるとしたらどう思われるでしょうか。
例えば、あなたが当初10年保有のつもりで、1か月前からA会社の株式を保有しているとします。
ところが、ある日思いもよらずある材料で取引価格が購入価格の5倍に跳ね上がったとします。
当初は、10年の長期保有で目指していたリターンがいま売却すれば達成できそうな状況です。
そこで、あなたはこの好機を逃すまいと、1ヶ月の保有期間で売却をしました。
さて、これは「投資」でしょうか? それとも、「投機」でしょうか?
売却した瞬間に投機になったとも言えるかもしれませんし、全体としてどちらともいえないかもしれません。
このように、投資と投機の境界線は1つの取引をとっても曖昧になってしまうことすらあります。
元来、「投資」と「投機」の差はあるものに資金を投じる際の行動の違いでしかないため、このようなことが起きるのは当然なのです。
(注:投資商品の種類や保有期間で投資と投機が明確に切り分け可能と主張される方は、恐らくあまり自分で投資した経験がないのでは?と個人的には思います。)
4. 投機はネガティブなものか?
ここまで、投資と投機の違いを見てきましたが、個人の投資家として「投機」をどう捉えたら良いのでしょうか。
「投機は危ない(?)のでやめましょう!」
という一見とても分かりやすいメッセージをよく目にされるかもしれませんが、これは本当でしょうか?
自分が投機的取引に取り組むかは一旦置いておいて、市場全体を見据えると投機家は存在してもらった方が良い存在です。
例えば、あなたの保有しているB株式会社の株式が未曽有の大暴落を始めたとします。
一刻も早く、いくらでもよいので処分したいとあなたは考えています。
しかし、株式にせよ、他の金融商品にせよ、価格が大きく下落している商品を引き取ってくれる買い手がいなければ売買が成立しません。
そこで、ある投機家が価格の反転を期待して、買い注文を出しました。
あなたは損失こそ出ましたが、投機家が買ってくれたおかげで、いち早く処分するという目的を果たすことができました。
この例で明確なように、投機は市場の流動性(保有している金融商品をいつでも現金化できる)という大切な機能を保つには必要なものなのです。
そのため、そもそも投資との境界線があいまいな投機をイメージだけで毛嫌いしてみたり、投機的取引を専門にしているファンドなどを不用意に批判したりするのはやめた方が良いかもしれません。
5. まとめ
- 「リターン」という観点では、「ギャンブル」はリターンの期待値がマイナスで他より明らかに低いものの、「投資」と「投機」を一般的に比べることは難しい。
- 「リスク」という観点では、大きな価格変動など市場の変化に乗じる「投機」の方がリターンのばらつきが大きくなりやすく、リスクが高いことが多い。
- 「保有期間」という観点では、一般には市場の成長を刈り取る「投資」の方が「投機」より長くなりやすい。
- 「投資」と「投機」の差は、資金を投じる行動の差であるため、商品や市場の種類という観点で切り分けるのは難しい。
- 「投資」と「投機」は、資金を投じる行動の差でしかないため、元来曖昧なものである。
- 「投機」は市場全体で見ると、流動性を維持するという、大切な役割を担っている。
いかがだったでしょうか?
本記事があなたが投資や資産形成に取り組む際の助けになれば嬉しく思います。
元本の保全とそれに対する一定の利回りとを目的として貨幣資本を証券(株券および債券)化すること。
利益を得る目的で、事業に資金を投下すること。出資。